ダンテ『神曲』つづき。

ダンテ『神曲』煉獄篇第6歌の中に、

Ahi serva Italia, di dolore ostello,
nave senza nocchiere in gran tempesta,
non donna di provincie, ma bordello!
(ああ! 卑屈なるイタリア、不運の旅籠〔はたご〕、
嵐に浮かぶ水主〔かこ〕無き舟、
諸州を統べる女王にあらずして、淫売宿。)

という一節を見つけた。
血みどろの政争に明け暮れるイタリアを嘆いている。
イタリア、というのは
ラテン語のvitulus、ギリシャ語のιταλος (共に「牛」を意味する)から来ているらしい。
すでにItalia、Ιταλιαという、今のイタリア語と同じスペルの語として
「イタリア」は使われていたようで、
ずいぶんと古くからの地名であることが分かる。
にもかかわらず、統一されたのは19世紀なのだから、
ローマ帝国の中心地域としての意識はあっても、
実体として纏まるには、長い紆余曲折が必要だったわけだ。
14世紀の初頭に『神曲』を書き進めていたダンテにとっては、
見果てぬ夢、悲願だったのだろう。
むろん多くの人にとっても。
そのヨーロッパ文明の中心地が、諸地方の激しい対立に明け暮れ、
「地獄篇」に描かれたような残虐な抗争や復讐・裏切りに満ちていたのだとすると、
この詩句の嘆きは、現代人の我々にも分かりやすい。
詩人の、幻の「祖国」に寄せる気持ちが、痛いほど伝わってくる。
坂本龍馬ではないが、分裂・対立している人々を纏める、というのは
本当に容易な業ではないのだろう。
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プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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