鼻的破裂音または鼻腔開放について

服部四郎『音聲學』に「鼻的破裂音」というのが出て来て、
学生時代以来なんとなく気になっていた。
(小泉保『音声学入門』では「鼻腔開放」と名づけている。)
これは英語のwritten, ribbon, baconなどの語の最後の部分、
閉鎖音+nのところで、その閉鎖音の部分を、
鼻腔(鼻につながる気道の途中)を開放して(破裂させて)発音するもので、
ちょうど、鼻の奥になにかひっかかっている感じの時に
「フン、フン」といって鼻から息を出そうとするのに似た感じで、
しかもその息はちゃんと「ン」という鼻音になっている発音である。
ところがこれは、通常の英和辞典などには[tn],[bn],[kn]などと表記されているものだから、
日本人はまともにこれを発音しようとして、どうしても[tən],[bən],[kən]などという発音をしてしまう。
またこれを「声門閉鎖音+n」と解釈しているものもあり、あまり解釈が一定していない。
もしも鼻的破裂音を[ʼn]と表記するなら(国際音声字母には、どうも記号が見当たらない)、
それぞれ[tʼnn],[bʼnm],[kʼnŋ]とでもなろうか。
最後の音が違っているのは、その前のt,b,k(鼻的破裂音とほとんど同時に発音される、と言うか、調音位置に舌は来るが、破裂は鼻腔の方でほぼ行われるので、ほとんど、又はかすかにしか聞こえない)
のために置かれた舌の位置のせいで、鼻音の音色が違って来るためである。
というのが私の解釈なのだが、「声門閉鎖音+n」のケースが本当に無いのかどうか、
また上記のような微細な発音器官の動きが正しいかどうか、
音声学の専門家にお聞きしたいところである。
しかし、アメリカ英語のこういった基本的な(珍しい発音ではない)について、
教育現場で使える定説もないのでは、英語教育がどうのこうのと言ったって
結局は「習うより馴れろ」という結論になってしまうのは仕方がなかろう。
発音の理論は、きちんと立てられるはずなのだが。
中学校のとき感じた、発音記号の奇妙さと、それを説明してくれない先生への不信感は、
実は根深い問題だったのかもしれない。


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テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

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井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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