文法用語の再検討

白水社のニューエクスプレス・シリーズの「ウクライナ語」を読んでいて、
文法用語が最近は変化しているな、と感じた。
名詞・代名詞の格変化の格の名前が、昔と変わっている。
「生格」と呼んでいたものが「属格」になり、
「前置格」とよんでいたものが「所格」となっている。
どちらが適切かは、議論のあるところだろう。
一般に「属格」といえば、「所属」の「属」だから、所有を表す。
しかし同時に印欧語の属格は、起源・出発点をも表すことが多い。「~から」の意である。
これを「属」で表せるかどうか、微妙なところだろう。
たしかに、もともとそこに所属していたから、そこを出発点とできるわけで、
その意味では正しい。ただ感覚的にストレートに結びつくかどうか。
「生格」の「生」も、「生ずる」と考えれば、「~から」に結びつく。
しかし、所有の意を表す点では、どうだろうか。
文法用語一つ取っても、命名とは難しいものである。
「前置格」も、必ずしもすべての前置詞が取るものではないから、問題がある。
しかし「所格」と言い切るのも、同様に問題だろう。
バルカン半島の諸言語に共通の現象に、「後置定冠詞」というのがあって、
これは英語のtheに相当するのだが、語の末尾に、接辞として付く。
末尾なのに「冠」はおかしいだろう。また、接辞であるから「詞」も議論の余地がある。
私としては「定尾辞」としたいのだが、どうだろうか。
(ちなみに、個人的な共通文法用語としては、「定尾辞」を使っている。)
文法とは、記述法によっても変化するし、用語によっても変わる。
文法書の記述や用語を暗記するのでなく、実例を見て判断しなくてはならない。
その上で、必要があれば書き換える。
多言語学習者が持つべき主体性、というものだと思う。
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テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

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井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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