再び辞書について(ギリシャ語辞典)

『シュタウブ希和辞典』(リトン)という辞書が出た。
希和(ギリシャ語─日本語)辞典というと、『ギリシャ語辞典』(古川晴風編著、大学書林)というのがあるが、これは4、5万円もするおそろしく高価な辞書で(もう絶版になったか)、おいそれと手が出るものではない。
西洋文化の源流はラテン・ギリシャだ、と口では言いながら、簡単に手に入る辞書一つ編纂してこなかったわが国の出版事情も底の知れたものだ。ラテン語には研究社の羅和辞典があり、改訂版(本体6,000円)も最近出たが。
この『シュタウブ希和辞典』(本体15,000円)も決して安いという値段ではないが、それでも従来のものの3分の1である。ちょっと奮発する気になれば買える。
なにより日本語で引けるのは有難い。有名なLiddell&Scottでは、やはり語義のニュアンスが今ひとつ掴みにくい。しかしこの有難い辞書が、ドイツ人の宣教師の編纂になるものであり、英語によるギリシャ語辞典を使っている日本人の学生の難儀を思ってタイプ印刷で限定出版したものがベースになっている、ということを聞くと、複雑な思いに駆られる。
iPadだの、電子出版だの、紙の本は無くなるだの、出版社は不要になるだのと世間は浮かれているけれども、この宣教師が(布教という目的もあるかもしれないが)、タイプ印刷でコツコツと作り上げた辞書の一字一字に込められたものを思えば、文化というものが何によって支えられるのか、勘違いせずに見詰め直さなくてはならないだろう。これはわが国の従来の出版界に対しても言っているのである。
スポンサーサイト

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード