抽象的音声記号(3)

今回は「抽象的音声記号」を実際の記述に応用する例を示して、まとめとしたい。
例えば、ドイツ語やロシア語で、
「語末に来る有声閉鎖音は無声化する。」という規則がある。
これは従来、文章で表現するか、
-g⋕ → -k⋕
-b⋕ → -p⋕
-d⋕ → -t⋕
というように、一つ一つの音種についての変化を全て列挙するしかなかった。

 また、「有声閉鎖音が、無声音に接続すると無声化する」という規則を表わそうとすれば、
文章以外なら、通常は10以上の式を示さなければならない。

しかし、抽象的音声記号を使えば、それぞれ、
無声音化
と書けば済む。(シャープ記号は、位置により語末あるいは語頭を表わす。)

また、「前方母音の前に来る子音は口蓋化(口蓋に舌がより広く接近した、潰れたような感じの発音、例えば「サ」が「シャ」に、「カ」が「キャ」になるような変化)を起こす」という規則は、
palatalization
と記せばよい。

また、「前方母音のあとに来る後方母音は前方母音化する。」という、トルコ語等に見られる母音調和の規則は、
front-vowelization
と示すことができよう。(その逆も起きる〔後の前方母音が前の後方母音のせいで前方母音化する〕が、逆の式をもう一つたてるだけでよい。実際の母音を全て列挙したら、大変な数の式を立てなければならない。)

音声変化の規則というものは、大変厄介な場合が多いが、このような工夫により、より簡潔に、納得しやすい公式化が出来るのではないかと思う。
もっとも、それでもなおいくつもの式を立てなければならないケースも出てくるだろうが、それを従来の方法でまとめていたら、より煩雑になるであろうから、このような記号は有効性があるのではないかと考える。

以上、完全に自前の説ではあるが、多言語学習で実際に役立っているものなので、ここに紹介した。
細かい工夫は各人でやり易いようになさればよいと思う。
スポンサーサイト

テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード