抽象的音声記号(2)

以下に、基本記号に各種補助記号を付して、具体的音声および音分類をした例を示す。

各種の音

横並びの第1列目を1、第2列目を2、以下3、4、5、6とする。
各列の左から(1)(2)(3)(4)(5)(6)とする。
1の列は、唇音(唇を使った調音の子音)を表わす。
Cの形(口室=「くちむろ」とここでは呼ぶ)の唇に当たる部分に○の形を付けている。
「唇の部分を使って調音する」という視覚的記号である。
1-(1)は、「唇音一般」を表わす。
1-(2)は、「唇音の閉鎖音一般」を示す。口室の上に、調音時に呼気をいかに通す(または通さない)かを示す。□は、閉鎖音のイメージである。
1-(3)は、「唇音の無声閉鎖音一般」を表わす。下の○は、無声音を表わす。従って [p]およびそれに二次的調音の加わった音を示す。[p‘]のように帯気音となる場合は、この記号に4-(6)の右上のような気息記号を付してもよい。この辺りは国際音声記号の借用である。二次的調音の有無まで常に表示しては、記号が複雑化しすぎるので、必要に応じて取捨選択する。
1-(4)は、「唇音の有声閉鎖音一般」を表わす。下の●は、有声音を表わす。 [b]およびそれに二次的調音の加わった音を表わす。[b‘]の処理については、同上。
1-(5)は、「唇音有声鼻音一般」を表わす。 実際的には[m]である。
1-(6) は、「唇音無声鼻音一般」を表わす。実際的には[m]の無声音(ささやく時のm)である。

1-(3)を[p]を表す記号、1-(4)を[b]を表す記号、とすることもできるだろうが、「唇音の無声(有声)閉鎖音」には他にも帯気音、咽頭化音等の「二次的調音による変種」が存在するから、厳密に言うとこの形で[p][b]を示すのは正しくない。[p][b]を厳密に表すには、他の二次的調音要素が存在しないことを記号で示す必要がある。しかしそれはあまりにも煩雑であり、このような基本的発音を示したいのなら、p、bという本来の記号を用いれば済む。この抽象的発音記号は各音種を示すためではなく、発音要素によるグループ分けを1文字で示すことにその眼目があるのである。

さて2列目は、摩擦音を示す。上の二本棒が摩擦音のイメージである。口室の内側に示した短い棒は、舌が触れる(あるいは近づく)調音点を示している。三角形は歯を表す。
左から「摩擦音一般」、一つ置いて「歯音の無声摩擦音(英語のthinkの頭の子音)」、「無声歯茎摩擦音」「無声歯唇摩擦音(実際には[f]など)、「硬口蓋無声摩擦音(実際にはchildの頭の子音など)を表す。左から2番目は「舌先が唇に近づく無声摩擦音」であるが、これは実例は無い。しかし、このような発音可能でも実例のない音も表記しようとすれば出来る例である。舌の○を●にすれば、それぞれ有声音である。

3列目も摩擦音のバリアント。軟口蓋、口蓋垂、咽頭、喉頭の調音を示す。

4列目は調音法の示し方。左より閉鎖音、破擦音、そり舌音、流音、声門閉鎖音、帯気音。これらの小記号を適宜付け足す。

5列目は吸着音、口蓋化音。

6列目は母音である。通常の母音三角形と左右が逆になることに注意。右が前を示す。
左より狭母音、広母音、前方母音、後方母音、鼻母音、無声化母音である。

このように必要な発音の各要素を適宜組み合わせて、抽象的な音グループを示すことができる。各要素の書き表し方は、各人工夫されるのがよかろうと思う。公式なものではないので。
なぜこのようなものを考えるかというと、音声変化記述の簡略化のためであり、発音上の現象を調音点、調音法と関連付けて感覚的に納得するためである。
次回は、音声の記述に応用する実例を示す。
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テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

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井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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