ゴート語、聖書という保存庫

古いゲルマン語の一つであるゴート語は、
4世紀にウルフィラという人が訳した、
聖書の翻訳によってのみ知られている、という言語である。
他には断片的な資料があるにすぎないのだという。
東ゴート語と西ゴート語が存在したが、
ウルフィラのそれは西ゴート語で、
それも8世紀にはスペインで滅んだそうだ。
キリスト教がなかったら、
そして聖書がなかったら、
恐らく、存在すら知られずに消えてしまっただろう。
そう考えると、聖書というものが、
古今東西、少数言語の姿をとどめるために果たした役割は
大きなものがあると言ってよいだろう。
さて、ゴート語の例文を、大学書林から出ている
『ゴート語の聖書』から示してみよう。
「マタイ伝」の5章第17節。
Ni hugjaiþ ei qemjau gatairan witoþ aiþþau praufetuns;
(わたしが来たのは律法や預言者を廃止するためだ、と思ってはならない。)
Ni hugjaiþ=思うな(niは「〜ない、〜するな」、hugjaiþ はhugjan「思う」の命令法2人称複数)
ei=〜ということ
qemjau=(私は)来た(qimanの接続法過去・1人称単数)
gatairan=破壊する(不定法)
witoþ=律法
aiþþau=または
praufetuns=預言者(praufetusの複数・対格)

ちなみにþは[Ө]の音、英語のthinkのthを表す。

praufetunsは、明らかにラテン語系の語彙だろうが、
hugjaiþなどはアイスランド語のhugsa(思う)、
qimanはcome(英語)、kommen(ドイツ語)、koma(アイスランド語)などと
同根であろうから、明らかにゲルマン系だ。
aiþþauもドイツ語のoderと関係がありそうだ。
しかし、ウムラウトは存在せず、
いわゆるゲルマン的な響きの薄い言語である。
むしろラテン的な響きも感じさせる。
『ゴート語辞典』(大学書林)という贅沢な辞典がある。
残念ながら私は持っていない。
辞書が思うように収集できるお金とスペースがあれば、と夢には見るが、
まあ図書館ではあるまいし、ほどほどにしなくてはならないだろう。
昔、英語でもうちょっと簡便な辞書を目にした気もするが、
その時買わなかったのが運の尽きだった、ということか。
思わず愚痴ってしまったが、
まだ読本は全部見ていないので、老後の楽しみにとっておこう。
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テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

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井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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