発音を教えるために

 実用的な英語教育を推進するために、小学校から英語を教えろと政府が政策を進めているが、現場ではどうなのだろう。そんなにうまく行くのだろうか。政策を決める方は気楽に決めても、実際に教えられる人間がいなければ「画に描いた餅」になることは見えている。
 そもそも従来の中学校からの英語教育だって、けっこう怪しい方法論でやっていたような気がする。
 中学校1年の英語教科書を見た時、見たこともない発音記号らしきものが当然のように載っていて、しかもそれを先生が説明もせず、「なんとなく俺の発音で見当をつけろ」とでもいうように授業が進んでしまい困惑した生徒は数多いだろう。
 betterという単語が「ベター」だと思っていたら、アメリカのポピュラー音楽などでは「ベラー」みたいに発音していて、これは一体どういうわけだ、と思ったが、そのうち「アメリカ人はアメリカ風に訛るのだ」と無理やり納得したように記憶している。
 tという音にいかなるヴァリエーションがあるのか、という説明があれば、きちんと納得できただろう。
 また[θ][ð]といった音の発音が、「下を歯で挟む」みたいな間違った発音指導をされたこともあったと思う。だから「舌を噛みそう」になる、などという形容がよく成された。これらの音は、下先と前歯の間で空気が狭い空間を通る時に起こす摩擦音、なのであって、下顎の歯は何の関わりもない。舌先を前歯の後ろかやや下の方にちょっと触れるかどうかぐらいに近づけて息をそこに吹き込めばそれで済むのだ。歯の間に舌先を挟む、などというアドバイスは必要が無いどころか有害である。
 それもこれも、大学の教育で音声学の基本、発音の基本的原理が教えられていないからであろう。「話すのが重要」というならば、まずそのあたりから直していかなければ英語の会話教育も決して進歩しないだろう。これは世界の英語の発音のヴァリエーションを理解するにも大事なことなのである。
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同感です

娘が3年生のとき、英語をでたらめな発音で読んでいたので音声記号の読み方を教えました。
大学生よりずっとまともに習得してくれたと思います。むしろ、小学生の方が変な知識で曇らされていない分音声学を理解してくれるのではないでしょうか。小学生に音声学を教えたいと思います。

子供用の英語の単語集や辞書はかなで発音を表記していたりします。それどころか、ドイツ語の辞書で音声記号が無くなっているのを見て「音声記号が迫害されている」と思いました。
音声学は40年前より軽視されているのではないでしょうか。

大学の先生で音声学の知識を持っている人が少ないのが問題です。たとえば、方言学の研究者で音声学を正しく理解している人は10パーセントいるかどうかでしょう。
こんな状態では教員養成で音声学を習得させることができません。したがって、教育の現場で音声学を子供に教えることもできないし、そもそもそういう発想にならないのです。

ひどいものですね。

そうなんですか。思っていたよりひどい状況ですね。
音声学を知らないで言語を教えるなんて、考えられませんけどね。
「英語の正しい発音法」みたいな本を出版する必要がありますね。発音法とヴァリエーションを示して。
日本語の歴史だって、これでは辿れませんよね。
プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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