「ムクドリと百一天使」 2

 チェレスティーノ・カランドラの別荘の管理人であるドンナ・ジェーザ(年老いた聖女)が、若鶏を二羽、引っ張られて伸びた首をぶらぶらさせて片手に持ち、毎朝、狩りから帰って来た我々に鋭い視線を浴びせかけた。特に睨まれたのはセバスティアーノ・テリッリで、彼はオリーブと鶏を虐殺しただけでは飽き足らず、その後テーブルに着くと、馬鹿げた議論で参事会員閣下を怒らせたのだった。
 オリーブとアーモンドの村に紛れ込んだような田舎の家が持つあの芳香、そして威厳のある部屋々々は飾り気もなく、広々として音がよく響き、床は低く、昔の穀物や葡萄の絞り汁の香りがし、日向で働く人々の汗と、藁と無骨な炉の薪が放つ匂いも漂っていた。しかしこれらのものも、アマチュア哲学者にして確信的な唯物論者であるセバスティアーノの辛辣な精神を和らげることはできなかった。本当に彼は、ひっきりなしに上げる叫び声に必ず、魂という言葉を入れる。──「これの魂にかけて! あれの魂にかけて!」──しかしその「魂」というのは本当の魂のことを言っているのではなく、つなぎに挟む言い方なのだった。
 最も熱を帯びた議論は夕方、夕食後に起こった。そしてこれが別荘管理人のドンナ・ジェーザには頭痛の種だった。彼女は床に就く前、部屋の隅に隠れ、そこにくるまったようにうずくまり、十五連のロザリオの祈りを唱えようとするのだった。彼女は気分を害していた、というのは、話に入り込んで反論したいという誘惑にたえず駆られていたからである。それは彼女の動作から明らかに窺われたし、時折、皺の寄った鼻の下を指でさっと撫でる仕草からも分った。
 彼女は背が低くて痩せた、快活な女だったが、常に苛立っていた。長くて薄い唇の間で唾をジュウジュウいわせる音がした。黒くてずる賢そうな小さな目を、フェレットのようにいつもまばたきさせていた。こめかみから頬、そして鼻まで、肌の表面に紫の細かな毛細血管が複雑に枝分かれして広がっていた。
 ついにある朝、朝食の後、彼女は我慢できなくなった。彼らは女について、妻を持つことについて、姑の話やら息子の嫁の話やらをしていた。ステファーノ・トライーナは、家に悪魔のような姑がいたが、世のあらゆる姑というものに対して激しい罵倒を浴びせ始めるのだった。
 「大概はね」──ドンナ・ジェーザはそこで口を出した。両手を上げ、鼻をひくひくとさせて。──「嫁なんてものはマムシよ! マムシ、そう、マムシよマムシ! そしていつも姑は悪者だって話になるのよ。」
ステファーノ・トライーナはしばし仰天したように彼女を見つめ、跳び上がって部屋へ銃を取りに走って行き、そして外へ飛び出した。
 皆はゲラゲラと大笑いした。ドンナ・ジェーザは眉をひそめて、笑いが収まるのを待った。それからチェレスティーノ・カランドラ閣下の方を向くと、同情のしるしに頷きながら、こう尋ねた。
 「ポポネは善女でしたわね? 閣下はご存じでしょう? あの、百一天使の奇蹟を起こした人を。」
 「話してください! 話して!」──私とバルトリーノ・ガッリオは彼女に向かって叫んだ。しかしセバスティアーノ・テリッリは耳に手を当てて言う。
 「ちょっと! 待って! 何ですって? 百一? 百天使とか百一天使とかがあるんですか?」
 「そうなんだろうよ!」──すぐにバルトリーノ・ガッリオが、話の腰を折られて彼女が話す気をなくさないかと、セバスティアーノに大声で言った。
 「百一、百二、百三……何を驚くことがあるんです? 天使はたくさんいますからね、神様がそれぞれに名前を付けてくださるのですよ。」
 チェレスティーノ・カランドラ(若き聖人)は人の良い微笑を浮かべて、我々に説明した。いわく、この百一というのは、正確に言うと、増えていく数ではなくて、或る特定の天使のことを指している。この天使に対して、地元の人は特別な信仰心を抱いているが、それというのも、この天使は煉獄の百の魂を司っていて、夜毎それらを聖なる企てへと導いているからなのだ。
 「百人隊長(チェントゥリオーネ。注:ローマ帝国の軍隊において、軍団の60分の1をなす歩兵隊の名称。)の天使ってこと?」──テリッリが言う。
 「で……ポポネのことは?」私はうんざりして、ドンナ・ジェーザの方へ向き直って訊いた。
 彼女は坐って、語りだした。

(つづく)

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ジャンル : 学問・文化・芸術

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井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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