三省堂の志

 三省堂から『カンナダ語・日本語辞典』という辞書が出るそうだ。このところ外国語辞書の出版も淋しくなってきて、これからは全てスマホのアプリみたいなものになって(私はスマホを持っていないので、用語が正確かどうか自信はないが)しまうだろう、そうなると商売にならない少数言語などは置き去りにされてしまうのだろうと思っていた。
 なにしろ「辞書」としてきちんと機能するレベルのものは、人手もかかる(つまりお金もかかる)し、必要とする人も限られるから、なかなか作られないだろう。今後は多言語学習も厳しくなるのだろうと考えていた。
 そんなところへこの出版情報である。ここのところ三省堂はシンハラ語、パンジャービー語(これは私も買った)、そして今回のカンナダ語、ヒンディー語(これも期待大)と、インドの主要言語の辞書に力をいれている感じだが、この厳しい出版不況の中、志の高さに感服する。
 インドの言語は英語本で探しても、大きなものは19世紀の英国統治時代の化石のような辞書しかないのである。現代語のしっかりした、しかも日本語で引ける辞書が出るなど、夢のような出来事である。この姿勢は称賛してもし過ぎることはない。
 昨今の出版界は「売れない」「どうすれば売れるか」という話ばかりで、何を出版して世のために役立てるかという姿勢があまりにも無くなってしまった。でも元来出版などは、そういう志が職業になったようなものなのだから、規模が縮小しようがどうしようが、その根幹だけは失わないで欲しいと思う。私も出版の世界で生きてきたから現実は分かっている。しかし志を失った出版など、ただ紙に文字をインクで刷って束ねて売っているだけの無意味な営為である。裏の事情は知らないが、三省堂のこの姿勢は見習いたいものだと思う。
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プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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