「ムクドリと百一天使」(ルイジ・ピランデッロ)日本語訳

ノーベル文学賞受賞のイタリア人作家、
ルイジ・ピランデッロの短編小説集
『一年間の物語』(Novelle per un anno)[1922]より、
「ムクドリと百一天使」(Lo storno e l'angelo centuno)を和訳します。
短編ですが、何回かに分けて掲載します。
なにしろ時間が掛かりますので(仕事もありますから)。
途中で別の記事も挟むかもしれませんから、
カテゴリの「翻訳」で、あとからまとめて読んでいただいてもいいでしょう。
時間がかかるかもしれませんが、ご辛抱を。
それでは第一回目分。


ムクドリと百一天使

ルイジ・ピランデッロ作
井上孝夫訳

 我々は暗いうちに起き、空きっ腹を抱えたまま悪路の近道を三時間歩き続けていたが、ステファーノ・トライーナによれば、この道を行けば行路の三分の一は節約できると言うのだった。だが出口が見つからず後戻りを余儀なくされること既に三、四度、もうどれだけの時間を費やして崩れた壁を乗り越え、竜舌蘭や木苺の密生した垣を探し、砂利の上を流れる水を横切ったか分からない。ひどい疲れで、眠り損ねた分を埋め合わせる唯一の手だてを奪われていた。それは平坦な道を歩きながら、田舎の朝の空気の陽気な新鮮さを味わうという埋め合わせである。狩猟靴と狩猟の装備が重くのしかかり、銃のベルトが両肩に食い込んだ。
 我々三人のうちの誰が、こんな状況下で、ステファーノ・トライーナに反論する度胸を持ち合わせただろうか。そして彼が、田園にとってバッタよりもひどい本当の災厄であり、神の下した真の罰であると描写したムクドリのことを、弁護する気になったであろうか。
 しかしステファーノ・トライーナは、こういう男なのだった。話しながらも、誰かが反論することを必要としていたのだ。そして興奮をますます募らせては、哀れな我々三人に知らせようとしていた。いわく、ムクドリはぎっしりと大群をなして飛来し、太陽の前を通れば陽を翳らせる。もしオリーブの森に降り立てば、瞬時にしてそれを根絶やしにする。なぜならムクドリは、なんと一羽で三個のオリーブを持ち去ってしまうからだ。足に一個ずつ、そして嘴に一個。嘴にくわえた一個は丸ごと飲み込み、苦もなく消化するのだ、と。
 「種ごとかい?」バルトリーノ・ガッリオが仰天して尋ねた。
 「種ごとだ。」
 するとセバスティアーノ・テリッリが叫んだ。
 「胃の中まで飲み込むのか!」
 「ムクドリが、ってことか? だから言ってるだろ、┅┅」ステファーノ・トライーナは続けた。
 結局のところ、ある意味で我々はチェレスティーノ・カランドラに感謝しなくてはならなかった──彼はモンテルーザの司教座聖堂参事会員の中で最も若く美男子であったが──つまり、彼は我々をクンボにある彼の地所で一週間過ごすようにと招いてくれたからだが、しかし一方、彼もまた我々に恩義を感じてしかるべきだった。我々はムクドリ猟をすることで、彼がオリーブの収穫をする手助けをしたことになるのだから。
実のところ、私もセバスティアーノ・テリッリもバルトリーノ・ガッリオも、狩りに出かけたことなどなかった。それは我々の真新しいピカピカの銃を見れば分かることである。なにしろ前日に買ったばかりなのだ。しかしそんなことは問題ではなかった。ムクドリなんて──ステファーノ・トライーナは断言した──目をつぶっていても撃ち落とせるさ。

 たぶんこんなわけで、我々は片目をつぶり片目を開けて射撃したのであるが、結果はといえば、四日間オリーブ林の中で無我夢中で狩りをしたあげく、一羽も、そう、たったの一羽も、まぐれ当たりでさえ撃ち落とすことは出来なかった。その代わり、オリーブはと言えば、銃をぶっ放すたびに雨あられと落ちて来た。だから善良なチェレスティーノ・カランドラ(年若き聖人)は大笑いして、これでは神様にしか慰めてもらえそうにないな、と言った。
 大量殺戮が起きるには起きたが、それはクンボでの鶏小屋で起きた。パンタグリュエル(注:フランスの作家ラブレーの小説の登場人物。大食漢で飲んだくれ。)のような飢えが我々猟師四人の内側で膨れ上がったのだ。だがそれはたぶん、撃ち損じたムクドリのことで我々を苛む怒りであったろう。ムクドリは悠々と、落ち着き払って、飛び去って行くのだった。まるでこう我々に言っているように。「ああ、うるさいなあ、そんなにパンパン撃って!」
(つづく)
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テーマ : イタリア語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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