合格率だけ上げてもなあ・・・

 通訳案内士の試験合格率を80%以上にしろと日本政府観光局が要請したという記事を読んだ。「国策」なのだそうだ。
 無茶を言うなあ。通訳という仕事は、本当に年季の要るハードな仕事だと思うし、長い訓練期間とたゆまぬ努力があって初めてやれる仕事だろうに。その上観光客相手となれば、歴史や地理や日本文化への造詣にも並々ならぬ素養を求められる。「80%以上にしろ」なんて、どの頭で考えたらそんな考えが出てくるのか。
 観光客が増えてそれに対応しなければならないのは分かるが、それを通訳にだけしわ寄せを及ぼすのは酷ではないか。
 外国人が増えてくれば、一般の国民も「私は外国語とは無関係」とは言っていられなくなるだろう。大きな目で見ればむしろそれが外国語(特に英語)上達の一条件、と考えるべきだろう。
 何だか前述の「国策」には、語学者への軽視というか、軽んずる気持がにじみ出ているように思う。江戸時代の通詞も、一般の武士のようには刀を腰に二本差すことは許されず、一本のみだったという。たびたび嘆願しても許されなかったというから、一段下の存在として見られていたのだろう。「外国語なんかペラペラ喋るだけの奴ら」という気持ちが、幕府の役人などにはあったのだろう。通詞なしで自分たちの力だけでは、外交や商売の交渉など出来るわけもないのに。
 それを、外国語のみならず多様な知識まで兼ね備えた人材を「合格さえさせてやればプロになれるのだから、当然そのくらいできるようになるだろう」と考えているのだとしたら、通訳の仕事をよほど甘く見ているのだということは、門外漢にも分かる。
 人が足りないのなら、周囲の人間が覚悟を決めて自分たちも(たとえ不完全でも)外国語を使うしかないだろう。もちろん「国策」などと言っている役人も含めて、である。
 旅行者も、外国を訪れるなら当地の言語を片言でも覚えるべきだ、というのが本来あるべき姿だろう。しかし現実には両者の相互の(不完全でもよいが)努力・歩み寄りによって解決されるべき問題だろうと思う。
 私も夏の旅行のために今3カ国語を必死に準備しているところなので、なおさら「自分は楽チンして、他人にばかり責任を押し付ける」精神の感じられる今回のニュースには、いささか首をかしげざるを得なかったのである。
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井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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