ヘッセ『樹木』

ヘルマン・ヘッセの『Bäumen』を読み始めたら、冒頭のエッセイ「Bäumen」に素晴らしい言葉があった。
 樹木が話しかけてくる、という文脈の中で、こんなことが述べられる。
 「我々が悲しみのあまり人生にこれ以上耐えられないと思う時、樹木は我々に語り掛けることができる。静かに! 静かに! 私を見なさい。人生は容易いものではなく、困難なものでもない。そんなふうに思うのは子供の考えだ。」そして続いてこう述べる。

……Laß Gott in dir reden, so schweigen sie. Du bangst, weil dich dein Weg von der Mutter und Heimat wegführt. Aber jeder Schritt und Tag führt dich neu der Mutter entgegen. Heimat ist nicht da oder dort. Heimat ist in dir innen, oder nirgends.
(……神が君の裡〔うち〕で語りかけるに任せなさい。君は恐れを抱いている、君の歩む道が母と故郷から君を引き離そうとしているのではないかと。しかし、一歩一歩の、一日一日の歩みは、君を新たに母に向かって導いているのである。故郷はそことかあそことかいう場所にあるのではない。故郷は君の裡にある、さもなくばどこにも存在しないのだ。)

 さらに、木々のざわめきを聞いて放浪への憧憬が掻き立てられる時、木々はその憧憬の核心と意味を示すのである。それは故郷から逃走したいという欲求ではない。その憧憬は故郷への憧れであり、母の記憶への憧れであり、人生の新たな比喩を求める気持ちであると。それは故郷へとつながっているのだ。
 それから以下のような文章が続く。

……Jeder Weg führt nach Hause, jeder Schritt ist Geburt, jeder Schritt ist Tod, jedes Grab ist Mutter.
(……それぞれの道は家へと向かい、一歩一歩が誕生なのであり、一歩一歩が死なのであり、一つ一つの墓が母なのである。)

 今の私には、心に沁みる言葉である。
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プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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