対照的な2冊読了

ボーマルシェの『Le Mariage de Figaro』(フィガロの結婚)原文読了。
ちょっと読み辛かった。好色な伯爵とその従僕フィガロ、そしてフィガロの婚約者シュザンヌと伯爵夫人を巡る喜劇。機知溢れるボーマルシェの才気は充分感じられるのだが、現代人の私にはどうもいま一つ乗り切れなかった。読解力不足はもちろんあるのだろうが、どうしても筋立てや道具立て(人の入れ替えだとか、誤解・行き違いのような)の技巧が目立ちすぎるのと、当時のフランス貴族の主従関係などが実感として分かりづらいのとが相俟って、私の求める「シンプルで深い」味わいとは隔たった作品に思われた。
もちろんこれは私の勝手な好みだから、ボーマルシェにはお気の毒としか言いようがない。
古典作品と言っても、やはり合う合わないはあるもので、以前ホーソーンの『The Scarlet Letter』(緋文字)を読んだ時も、期待したような感興が得られなかった。それは仕方ないことである。私は外国文学の評論をしているわけではないので、客観的な視点を提供する立場ではないしその能力もない。ただ一人の人間として、読んだ個々の作品について感想を述べているだけである。多言語読書の周辺の独り言みたいなものである。聞き流して(読み流して)いただければ幸いである。
さてもう1冊は、本当にすこしずつ読んできたヘルマン・ヘッセの『Wolken』(雲)である。詩と詩的散文、そして美しい雲の様々な写真を配したこの本は、今の私の心情にしっくり来る、自然を巡って織りなされる人生の追憶と孤独の書である。この人の詩的作品は、私にはとても信頼できるものに思われる。高名な作家に対してずいぶんと偉そうな物言いだ、と思われるだろう。私もそう思う。しかし、人生の限りある時間の中で、より読みがいのある作品に巡り合おうとすれば、やはりどの作家の、どういう傾向の作品が自分にしっくり来るのかを知るのは大切なことである。私はヘッセ研究のためにヘッセを読んだわけではない。人生に対する感慨を幾許かでも深めてくれる作品に逢いたいだけである。次はヘッセの『Bäumen』(樹木)でも読もうか。あるいは詩集『Das Lied des Lebens』(人生の歌)にしようか。長編小説には手は出さないでおこう。作家研究は専門家の仕事である。
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プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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