音声記号のレベル的差異について

言語の発音表記には、いろいろなレベルがある。
一般には国際音声記号が使われている、と理解されているだろうが、実際にはそれがそのまま利用されることは少ないのである。何らかのヴァリエーションが加わっている。
たとえばrという発音記号は、英語とフランス語、スペイン語でははっきり発音が異なる。本来はスペイン語のように、舌先を震わせるtrillと呼ばれる音を表すが、英語では舌先を巻き上げる音ɹであり、フランス語では口蓋垂摩擦音ʁを表すことが一般である。
国際音声記号自体も、精密さと、言語観察の結果としてのある種経験値との妥協みたいな性質を持っている(発音は可能であるが実際に観察されない音に対する記号は存在しない。例えば、舌先と上唇を接触させて破裂させる音というのは発音可能だが、それに対する音声記号は無い。また、微妙な発音位置の違いによる音の違いは、実際に諸言語に音韻の違いとして現れないヴァリエーションは考慮しない)。
これは当然であろう。差異を突き詰めて行くと、個人的な音の違い、果ては同一人の発音毎における細かな違いまで表わさなければいけない、という極論に達してしまうわけで、それは恐ろしく非現実的な話だからである。
音声記号にいろいろなレベルの差異があり、通常は一部そのレベルを混淆させながら表記しているのだ、ということは頭の片隅に置いていてよいことであろう。
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テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

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井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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