「テルマエ・ロマエ」のラテン語

話題の映画「テルマエ・ロマエ」を観た。
面白い映画であることは当然のこととして(この点については他にも多くの人が感想を述べていると思うので、私が特に付け加えることはないだろう。)、注目したいのは、ラテン語である。
ローマ帝国の公用語ラテン語が、こんなに身近に取り上げられるのも珍しいことだ。
主人公は古代ローマの建築技師で、テルマエ(共同浴場、温泉)の設計者である。
ただ、名前がルシウスとなっているが、Luciusというスペルなら「ルキウス」が正しいだろう。
テルマエはthermae(thermæとも綴る)で、これはギリシャ語のΘερμος(テルモス=熱い)から派生したτα θερμα(タ・テルマ=熱い場所、温泉)から来ているだろう。
ロマエはRomae(またはRomæ)で、Romaの属格形である。
従って「ローマの温泉」ということになる。
タイトルはともかく、劇中で上戸彩さんが「初球ラテン語」の教科書を勉強していて、そのまま古代ローマの時代に移動してしまい、そこでラテン語会話(実際の台詞は日本語だが、そういう前提の会話)をするシーンがある。
そこで、「私、もう少しあがいてみる。」といった台詞があるのだが、「あがく」とはラテン語でどう言うのだろうと調べてみると、nītorとかcōnorとかcontendōといった語が(いずれも「努力する」くらいの意味)出ていた。
初球ラテン語の途中までかじったぐらいで、これらの語が使えたとしたら、かなりのものだとは思う。
その他にも自在に会話を交わしていたが、本当はこうはいかないだろう。
世の中の「外国語会話」って、こういうイメージなんでしょうね。
ちょっとかじったら、もう自在に話せる、という。
それから、現代日本へ舞台が映ったときの、ルシウスと彼女の会話は、ラテン語そのものだったけれど、
facis(ファキス=you do)を「ファシス」だったか「ファチス」だったかという発音をしていたり、
その点では若干あやしかったけれど、俳優たちが「現場乗りで自由にやりました。」と言っていたし、あんまりうるさいことを言うのも無粋なので、これくらいにしておこう。
ともかく、ラテン語という言語を身近に感じさせてくれただけでも、この映画は意味があったと思う。
いや「それだけでも」なんていう言い方は失礼だ。エンターテインメントとしては素晴らしい。おすすめの一本。
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テーマ : 映像・アニメーション
ジャンル : 学問・文化・芸術

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まとめtyaiました【「テルマエ・ロマエ」のラテン語】

話題の映画「テルマエ・ロマエ」を観た。面白い映画であることは当然のこととして(この点については他にも多くの人が感想を述べていると思うので、私が特に付け加えることはないだろう。)、注目したいのは、ラテン語である。ローマ帝国の公用語ラテン語が、こんなに身近...

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やっぱりルキウスだと思います

このスレを今頃見つけました。
私も初めから、ルキウスだと思いました。でもローマ時代のラテン語の発音はわかっていないし、イタリア人のラテン語教師たちは、今の聖職者と同様、咽頭音を発音できないので、ciはチと発音します。facisもファチス、塩野七生さんもウェルキンゲトリクスをウェルチンジェトリクスと書いています。ciをシと発音するのはフランス方面の人なので、ルシウスはガリア系かもと思っていました。彼の家に、ファウケスやアトリウムがなく、いきなり居間なのにはびっくり、青柳先生も美術セットまでは監修できなかったのでしょうね。

落し所?

基本的にコメディですから、
あんまりうるさいことを言っても仕方ないのでしょう。
日本の時代劇も考証家から見たら、結構とんでもないものが多いそうですし。
以前キリストの受難を描いたアメリカ映画「パッション」でも
ラテン語とアラム語を劇中で話している、という触れ込みでしたが、
ちょっと疑問に思う発音があったように記憶しています。
要は「ラテン語」「アラム語」という、なにやら難しくいかめしい言語を、分かった気持ちになりたい、という点を満足させれば充分なわけです。
言語学的に云々、ということに多くの人々は興味がありませんから。言語以外の考証についても、観客にとってそれらしければ良い、ということです。
つまり映画制作と興行のプロから見て、ここらあたりが落し所、ということなのでしょう。
でも、こうやってラテン語その他のイメージも作られてしまうのでしょうね。
プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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