印欧語族の奇跡

ある人から
「印欧語族の系統樹みたいなものが、他のグループにもあるの?」
と訊かれた。
印欧語族(インド・ヨーロッパ語族)の分類はかなり明確になってはいるが、
系統樹というイメージに正確にできるのかどうか、
専門家にはいろいろ意見があるであろう。
そもそも言語が樹木の枝が伸びるように
明快な枝分かれをして変化していくものかどうか定かではないだろう。
途中で別系統の言語の干渉もあるだろうし、
人の交流が大規模になれば、それに伴う種々の要因が作用するだろう。
しかし、細かい点は別として、印欧語族の系統イメージは
他の語族・言語グループよりはっきりしているとは言える。
それはなぜか。
文献が多量に残っている、というのがその大きな理由の一つだと思う。
考えてみると、この語族が辿った道には、大文明が発達していた。
インダス文明の後にアーリア人(印欧語族の祖語の一つを話していた)が入った。
サンスクリット(印欧語族研究のきっかけになった言語)の文法を詳細に記述したパーニニの文法も、この土台があったから文献として残ったのであろうし、
研究の発展におおいに寄与したヒッタイト語は、
メソポタミア文明で発達した楔形文字で残った。
古代ペルシア語も楔形文字で記されている。
そしてギリシア・ローマという大文明の膨大な文献。
その後のヨーロッパ文明の多くの言語資料
(加えてキリスト教の聖書翻訳・伝道・研究によって残された古代文献)、
これらが全て研究のための多くの情報源になっている。
こんな恵まれた環境は、他の言語グループにはとても考えられない。
印欧語族の歴史的研究自体が、一種の奇跡なのかもしれない。
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テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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