三度(みたび)のヘブライ語

『現代ヘブライ語』(山田恵子著、白水社刊)という本がある。
これを読みつつ調べをしている。
ヘブライ語を学ぶのは初めてではない。
学生の頃、すでにやったし、聖書の「創世記」も解説付きのテキストで読んだ。
現代ヘブライ語も勉強して、
会話テープもそれなりに聴いた(とても話せるレベルではないけれど)。
特にこの言語に思い入れがあるわけでもないし、
キリスト教を研究しているわけでもない。
(ヨーロッパ文化の基盤としてのキリスト教に興味がないわけではない。
しかし一般の日本人以上の関心を抱いている、ということでもない。)
ではなぜ、3回目の学習をしているのか。
その理由は、ヘブライ語の表記法にある。
ヘブライ語の表記法には2種類ある。
両方ともヘブライ文字を使うが、一つは伝統的・文法的表記で(クティヴ・ハセルと呼ぶ)、
一般的にはこちらを学ぶ。
ヘブライ文字には本来、子音文字しか無い。
それでは発音が再現できないので、母音をあらわす補助記号を使う。
それらを子音文字の下または左に続けて母音を表示する(ヘブライ語は右から左へ書く)。
この表記法は、聖書等の古典や、学習用のテキストなどで用いられる。
それを勉強したからといって、さて現代ヘブライ語を読もうとすると、
さっぱり分からない。
それは綴りが違っているからである。
もう一つの表記法(クティヴ・マレ)は、母音補助記号を使わない。
y、またはv(w)を表す文字を母音を表す記号としても用いる方法である。
もちろん、これで発音が完璧に再現できるわけではないのだが、
かなりの部分推測が利く。あとは習熟の問題、というわけである。
例をあげよう。
「朝」は、(ボーケル)בקרと伝統表記では書くが(母音補助記号はネット上では示せないので略す)、
現代表記ではבוקרである。
וが加わっている。これがoの母音を表している。
「6」の男性形は伝統表記がששה(シシャー)で、現代表記がשישהである。יがiを表している。
この現代表記を学ぶ教科書が無かった。上記の本が初である。
だから3度目の学習なのである。
言語によっては、同じ「〜語」といっても、
時代や地域その他の理由で、何回か学習しなければならない言語がある。
ヘブライ語はその一つである。
人工的に復活させる試みが成功した唯一の言語だが、
やはり古典語と現代語では違うのである。
(動詞一つとっても、古典の完了形・未完了形・分詞が
それぞれ現代語の過去形・未来形・現在形として使われる。)
一筋縄では行かないところである。
しかし現代語のスペルを学ばなければ、
インターネットのヘブライ語ニュースは読めないのである。


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テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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