リンガフォンのこと

久しぶりに懐かしいリンガフォンの「アイスランド語コース」の録音を聴いた。
これは昔買ったものをレコード(!)→テープ→MD→MP3と録音を引き継いで来たものである。だからレコードの針音が聞こえる。
私はこの録音を若い頃ずいぶん聴いた。かなり聴覚的記憶には残っている。
だからといってアイスランド語が堪能か、と言われれば、そんなことはない。
本気なら、もっと徹底的に聴き込み、文法的にも飲み込み、応用練習もしなければいけない。
とは言っても、この日本にいてアイスランド語の応用練習はまず不可能である。
私はこの録音が好きなのである。この言語の(というか、このコースの)響きが。
これを聴くことは私にとってちょっとした娯楽なのだ。分っていただけるだろうか。
吹き込み手が優れていて、テキストの構成も優れていて、イラストレーションにも味わいがあり、まるでその教材が一つの世界を成しているようなもの、というのは、長い間語学学習をしてきたが、滅多にあるものではない。
リンガフォン、というのはその点でレベルが高かった。
今から見たら、まだ若干外国への偏見が残っている(エキゾチシズムを強調しすぎだ)とか、なにせ古いものだから、出てくる事物が現在では一般的でないものがある、などの点は認めるが、とにかく魅力的である。
事物が古い、というのは、例えば例文で、
Þetta er grammófónn.(これはレコードプレイヤーです。)
Þetta er hljómplata.(これはレコードです。)
Platan er á grammófóninum.(レコードがプレイヤーの上にあります。)
といった類の表現。また、
Af óllum hugvitsfóstrum mannsandans er útvarpið eitt hið merkilegasta.
(人間の知性が発明したあらゆるもののうちで、ラジオは最も注目すべきものの一つである。)
といった文章などである。
「こんな例文覚えても役に立たない。」というのは、半分は無理解であり、半分は誤りである。
名詞など、文法を押さえた上で入れ替えれば、応用はすぐに利く。
現在存在しないものに興味は無い、というのは、歴史や人間に興味が無い、ということであり、それは実利的というよりは、むしろ精神の狭さである。そんな人が外国人とどんな会話をしようというのだろう。

ともかく、このリンガフォンはもうこれとアフリカーンスしか手許には残っていない。他は全部散逸してしまった。私の保存に対する怠惰のせいである。
アイルランド語コースも魅力的な声の女性ナレーターがいた。取っておけばよかった。
音声教材のナレーションの優劣は、教材の質に決定的な影響を及ぼす。イタリア語の日本での教材で、日本語ナレーションの女性が、あまりにも仰々しい抑揚で話すもので、嫌になって捨ててしまったものがある。教材作りの会社は、ナレーターの選抜に少し力を入れて欲しいと思う。
 
スポンサーサイト

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

No title

アルバニア語に続き… 高校性の時、短波ラジオ小僧でした。Radio South Africaの国際放送(英語)でアフリカーンス講座を何気に聞いていました。放送局に手紙を書いたら立派な教科書が送られてきました。世界史を学び、オランダ語のクレオールのような言語である理由が分かりました。同じ頃、アイスランドにも興味があり、その言葉が聞きたくて、でも短波放送は受信できませんでした。サガでしたか、あの抒情詩(?)。翻訳で読んでみたいと思うだけで、30年経ってしまいました。今も行ってみたい国のひとつです。

Re: No title

> アルバニア語に続き… 高校性の時、短波ラジオ小僧でした。Radio South Africaの国際放送(英語)でアフリカーンス講座を何気に聞いていました。放送局に手紙を書いたら立派な教科書が送られてきました。世界史を学び、オランダ語のクレオールのような言語である理由が分かりました。同じ頃、アイスランドにも興味があり、その言葉が聞きたくて、でも短波放送は受信できませんでした。サガでしたか、あの抒情詩(?)。翻訳で読んでみたいと思うだけで、30年経ってしまいました。今も行ってみたい国のひとつです。

> いろいろな言語に興味をお持ちのようですね。30年前というと、インターネットも無く、少数言語を学ぶのはそれは大変なことでした。同じ頃に、同じような憧れを持って勉強していた方がいると思うと、嬉しく感じます。今の若い人はそういう憧れを醸成する期間がなくて、逆に気の毒な気もします。
プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード