ダルマチア語を読む(続き・ウダイナの最後の言葉)

 『ダルマチア語』は引き続きずっと読み進めている。
とうとう、最後のダルマチア語話者トゥオネ・ウダイナの発話記録も最後まで来てしまった。
以前、ウダイナの身辺事情が書かれていたところから後は、いろいろな日常の話題についての、いかにも言語記録らしい細々としたもので、それゆえ伝記的というか文学的というか、そういった興味を引くような話題は出て来ない。
しかし、最後に至ってウダイナの肉声とも言うべき発言が記されて、バルトーリの調査は終了するのである。それは以下のようなウダイナの発言である。

Levuote [indicando il bicchiere].
ju ve venare a katúr e salutúr, per el viadz ke fazuote…
ke dí ge dúa una buna kal.
a revedarse! buŋ viač ju ge lo dú, dúa.
Noŋ dimentikuote el vetruŋ udaina.
(〔グラスを指差して〕それを持っておくれ。
あんたを連れ出して挨拶しようと思ってな、この先の旅のために…
神様が良い旅路にしてくださいますように。
さようなら! 良い旅になるよう祈るよ。
年寄りのウダイナを忘れんでおくれ。)

表記は、例の如く、バルトーリの表記通りではない(コンピューターの制約上)。
また、一部意訳になっている所もあることは断っておきたい。

それにしても、バルトーリとウダイナの間には、もっとたくさん会話が交わされたであろうが、研究者としてバルトーリが提示したウダイナのダルマチア語は、これでおしまいである。そして、これがダルマチア語のいきいきとした会話の最後の記録となった。
 後にウダイナは道路工事の爆発事故で亡くなる(新聞記事を信じるならば)。

今後は、周辺の(ネイティヴとは言えない)人間が断片的に記憶しているダルマチア語と、文献に記録されたダルマチア語を読むことになる。それもそんなに沢山あるわけではない。ダルマチア語の、それが残された全てである。
滅んだ一つの言語の全ての記録を読む、というのは、悲しいものである。
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プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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