イタリア語への翻訳

今、イタリア語の先生に提出する作文として、
高峰秀子さんのエッセイの一つをイタリア語に訳している。
私的な翻訳であり、原文には当然著作権があるから、
ここで示すわけにはいかないのだけれど、
一つ面白いことに気づいたので、そのことに触れようと思う。
高峰さんは、一昨年亡くなった、日本映画を代表する名女優で、
その自伝・エッセイも近年再評価されている。
私も高峰さんのファンであったこともあり、
イタリア人の先生にも知ってもらいたいという気持ちもあって
今回の試訳を思いついたのである。
高峰さんの文章は、我々が忘れかけている日本語独自の面白さを思い起こさせてくれる、
生き生きとした表現に満ちている。
高峰さんは、幼女の頃から人気映画女優であったため
実は学校教育をほとんど受けられなかった。
周囲の優れた人々や、本当に親切心を持った人々から
必死で吸収したものが、彼女の教養のバックボーンになったのである。
そのために、逆に言うと和文英訳的な、洋風な論理で無理やり組み立てる作文とは無縁の、
純粋に日本語的な文体が保持されたのかもしれない。
1カ所だけ例文を引用させてもらうと、
「芸能人といわれる人の芸を見ず、小説家の小説を読まずして、
つべこべと書き散らすことが、いかに僭越、不遜なことか、
というくらいのことは、私のようなアホウにもわかっているけれど・・・(以下略)」
日本語としては実に論旨明快、ポンポンと気持ちよく頭に入ってくる文章だが、
いざイタリア語に訳そうとすると、どこから手を付けたものか、しばし迷う。
教科書で習う文法に従って訳すと、伝わらない部分が大きい。
文章の気風(きっぷ)の良さ、というものは、叙述の順番、言葉の選択、
その他微妙な要素に支えられているので、外国語に訳すのは至難の業である。
私の翻訳だって、どこまで伝えきれているものだか、自信はないが、
それでもイタリア人に日本の知られざる良いものを伝える一助になれば、という気持ちでやっている。
本当は、公的な機関や団体がやるべきことなのだろうが、
まあそんなことにお金を使ってくれる国ではないので、
ひっそりと、個人レベルでやるしかないのだろう。
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テーマ : イタリア語
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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