アルバニア語の孤独

アルバニア語会話を、電車で少しずつ聞いているのだが、
この言語は、意外に孤独な言語だ、と思う。
孤独だ、というのは、周囲のヨーロッパ言語が、似た仲間と言うべき言語を持っているのに(ハンガリー語も周囲から見ればかなり特異だが、フィンランド語その他のウラル諸語とその構造は似通ったものがある)、親戚でありながら、感触のかけ離れた言語だ、と感じるところにある。
アルバニア語はバスク語などと違って、一応印欧語である。バスク語ほど違えば、孤高の存在としてのアイデンティティをかえって持ちやすいだろう。しかしアルバニア語の位置付けは微妙だ。例文を示そう。

A e shikuat ndeshjen?(君はその試合を見たか?)
Beti e ka ditëlindjen. Nuk di ç’dhuratë t’i blej.(ベティは、誕生日なんだ。何の贈り物を買ったらいいだろう。)
Çka do të bëje po të kishe para? ──Do të blija një veturë të re.
(もしお金があったとしたら、何を買う?──新車を買うね。)
.
どうだろうか。他のヨーロッパ語を学んだ方でも、ちょっと取っ掛かりがみつけられないのではないか。固有名詞を別にすれば、nukというのが否定辞ではないか、veturëは「車」だろう、という程度の見当しかつかないのではないか。
説明を簡単にすると、第一文は、a(~か?)、e(それを)、shikuat(君は見た)、ndeshjen(その試合を)となる。
第二文はe(それを)、ka(持っている)、ditëlindjen(誕生日を)、di(私は知っている)、ç’dhuratë(何の贈り物を)、t’i blej(彼女に買う)。
第三文は、çka(何)、do të bëjë(君は買うだろう)、po(もしも)、të(それらを)、kishe(君は持っていた)、para(お金)、 do të blija(私は買うだろう)、një(一つの)、veturë(車)、të re(新しい〔ところの〕)、となる。
最後のtë reのtëは、re(新しい)の修飾形に前接する小辞で、これも変化する。t’iというのはtë iの略で、このtëは、先ほどのものとは違い、動詞に前接する小辞で、分詞や不定詞などを形成する(説明しづらい)。iは「彼女に」の意。do tëは未来を表す。英語のwillに相当する(ここでは、後の動詞の変化との関連上、wouldの意味になる)。
目的語を先取りする代名詞も頻出する。
全体に語形も見慣れないものが多い。
意外に孤独、という意味がお分かりいただけただろうか。
実はギリシャ語も同じように孤独なのだが、こちらはヨーロッパ文明を背負っている言語として(末裔の現代ギリシャ語の立場は微妙かもしれないが)、一応矜持は保てる。
しかしアルバニア語は文化的にも注目度が低く、難民や紛争で話題になるくらいだ。
なんだかやりきれない気もする。この隠れたヨーロッパを研究する若い人が現れないものだろうか。
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テーマ : 言語学・言語論
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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