『英語という選択』

『英語という選択』(嶋田珠巳・岩波書店)読了。
アイルランドの言語事情を、実際のフィールドワークにも基づいて考察している。
本来の母語ゲール語を英語によって侵食され、それでもアイルランド英語という独特の英語に母語の特徴を反映させているアイルランド人たちの言語意識や、言語の交替について思索を巡らしている。
最後の部分で、昨今の日本の小学校における英語教育について述べている部分が、「日本語が無くなるはずはない」という楽観的な観測に基づいているということに気付かせてくれて、ハッとするものがある。
早期の英語教育がもたらすものについて、もっと真剣に考えなければいけないだろう。また、中学校以降の英語教育における発音教育の未熟さなども、もっと論じられなければならない。早期教育なんて有害かもしれない。あとから正しい方法で身に付けさせること、そして母語以外の習得を「自然に楽に」身に付けたいなどという虫のいい考えはまちがっているのだ、という認めたくない真実をはっきりと示すこと。一般の人に実際に必要とされる英語はどのようなもので、それに無駄なく近づくにはどうしたらいいのか、という基本的なことを私たちはもっと考えなくてはならないのだ。
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聴き直しの効用

 現代ギリシャ語の聴き直しが終わったので、次はカタルーニャ語の聴き直し。
 エクスプレスシリーズなどの短い教材を聴き直すのは、言語の知識や感覚を維持するのには良い方法のような気がする。Assimilなどのボリュームがある教材は、そう気楽に聴き直せない。その言語にはちょっとご無沙汰だな、という時に短い会話教材があると助かる。
 音読が楽なくらいに発音の感覚が残っていると、ほとんど単語を忘れてしまっている場合でも一つハードルが低くなる気がする(感覚が残っている、ということは本当に基礎的な文法機能を担った語やその振る舞い方は覚えている、ということだからだろう)。多言語学習で大切なことである。
 私は自分の記憶力に全く自信はないのである。だから聴覚印象をなるべく保って、後は必要に応じて覚え直す、という段取りでやっている。これがベスト、と言う気はないが、自分には合っている方法である。

とにかく試す

 スペイン語の翻訳終了。今回はちょっと大変だった。詳細は控えるが、翻訳というものの難しさを十分味わった。
 しかし同時に翻訳の面白さも感じた。日本語に直すことで、文書の意味が明瞭になってくるということが快い。背景も調べることで、全く知らなかった状況なども見えてくる。体力的には大変なのだけれども、時にこういうものがあるのは悪くない、と思う。
 モンゴル語の単語帳をずっと電車で眺めている(マーキングしながら)。こんなやり方は受験の時の単語帳暗記みたいなもので、役には立たないというのが今の常識だろうと思うけれど、あえてやっている。本当にそうなのか確かめてみようというのもあるけれど、モンゴル語の学習教材があまりにも少なく、またモンゴル語の語彙が他言語との共通項があまりにも少ないということもあって、試しにやっているのである。これをやったあとで、ネット上の新聞記事などを読もうとした時に、どれくらい助けになるものか、一種の実験でもある。語学の学習法も流行りすたりがあって、本当に何が有効なのかは実際の所分からない。とにかく色々試してみるしかない。能書きばかり言っているわけにもいかない。とにかく馬鹿げているように見えてもやってみよう、というところである。
 学習はいつも手探りである。それが逆に面白いのだ。

タイ語のこと

 タイ語の文法ノートを、遅ればせながら仕上げた。文法ノートを作るという発想のまだ無い頃に勉強したので、ノートが無いままにしていたのだが、時折、タイ語ではこういう時どういう形式で表現するのだろうと思った時には、ああ文法ノートがあればなあと思ったこともあって、心の中にいつも引っかかっていた。今後はこれを参照したり、気づいたことがあればこれに書きこんで行けばよい。拠り所になる。このノートは多言語学習の核になるもので、文法を忘れた場合のクイックリファレンスにもなり、なるべく共通の基準にもとづいて纏めようとしているので、自然に他言語との比較ができるようにもなっている。
 外国語入門シリーズで、こういうコンセプトにもとづいて編まれたものがあれば多言語学習者には役立つと思うが、編集は大変だろう。各言語の専門家にとっては、他言語の文法体系など「関係ない」ものであり、そのあたりをリードできる編集者も殆どいないだろう。

 さてタイ語の入門書で一つ要求したいのは、タイの街角の写真に見える看板などで、書籍に使う文字とはちょっとデザインの違う文字(日本で言ったら草書体みたいなものか? 書き文字をそのままデザインしたものだろうか?)がよく見られるのだが、これが教科書に出て来る文字でどれに当たるのか、解説というか対照表にしたものを見たことが無い。しかたなく写真の説明キャプションなどから当たりを付けて部分的に解明したりしている。ちょっと配慮してその説明を加えてくれれば、旅行者にも役立つだろうし便利だと思うのだが。入門書は初心者に徹底的に親切でなければならないと思う。

語学教材の発音表示について

 最近仕事でベラルーシ語の発音を確認する必要があり、久しぶりに文法ノートを開いた。
しかしそれがネット上にある情報と細かい点で違いがあり、本当のところを知りたいのだが、そう言えば実際の発音を聴いたことがないと思い当たった。
 仕事の件は何とか着地点を見つけたけれども、考えるとヨーロッパの主要言語のうちで、ベラルーシ語だけは日本語の入門書や会話集を見たことがない。ベラルーシ語はスラヴ語派の一つでロシア語に近い言語であるが、他の言語は曲がりなりにも日本語で書かれた教材が出されているのに、この言語のそれは見たことがない(もしあったらご容赦いただきたい)。
 他の言語でも教材の数が少ないと、その教材の質に期待したくなるが、やはりページ数の制約その他で、十分な記述が得られないことがある。
 今アイルランド語の教材を聴き直しているが、アイルランド語はスペルと発音の乖離が大きいので、何度聴いても正確な発音が覚えきれない。片仮名が書いてある部分もあるが、その表記と実際の発音が若干違っている場合もあったりして正確な発音にはならない上に、後半ではそれも省いてある。スペルから発音を類推しにくい言語は、最後まできちんと発音は示してほしい。結局聴きながら発音を国際音声記号で記入するようなことをしないと、あとで聴かずに復習するときに困難を覚えることになる。デンマーク語やチベット語などの教材にも必要な配慮だろう。
 語学教材に付いている音声教材の発音チェックというのはまず行われていないだろう。本当は説明と食い違う発音などは解説(これは録音者の個人的あるいは方言的な差異である、とか、この発音は同一音韻内の異音である、といったような)してもらうとありがたいのだが。もっともこの作業は編集者・筆者・ネイティブスピーカー三者の相互協力が必要である。要求しすぎだ、と言われるかもしれない。
プロフィール

井上孝夫

Author:井上孝夫
多言語の学習・研究、多言語読書を長年続けています。著書に新潮新書『世界中の言語を楽しく学ぶ』『その日本語、ヨロシイですか?』あり。マンガ・イラストの別ブログ「スケッチ貯金箱」もやっています。

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